人工妊娠中絶術において、よく言われる問題は、三つである。①麻酔のトラブル②子宮穿孔③不全除去となる。

麻酔の問題は、手術の時間は眠って、終わったらさっさと覚めて、というものが望ましいのであるが、なかなかそう万能のものはない。また、対象が人であり、いつも同じパターンでいいという代物でもない。でも、そうした麻酔のトラブルを避けるために、様々な補助機械が導入された。

そういえば、昔私のいた大きなな病院の部長先生は、患者さんの鼻の上に綿花を乗せていた。これは何のためか、といわれれば、鼻から吐き出される呼気で綿花がひらひら動くのを確認する、という基本的な方法であり、きっと部長が工夫されたのであろう。ということは、麻酔に伴って呼吸停止という苦い経験があるのかもしれない。

部長のころから約20年が過ぎ、血中酸素飽和度モニターが広く普及するようになり、そうした工夫をしなくてもよくなった。こうした機械と万一の時のアンビューバッグを備えておけば、安心である。逆いえば、こうした用意がないままで手術をすることはない。(これも私の経験である)。そうした経緯からイソゾール系ではなくて、ケタミン系を使うようになった。夢だけが、残された課題である。

次に子宮穿孔と遺残であるが、これはある意味表裏一体である。一生懸命取ろうとしてやればやるほど穿孔のリスクも増す。ちなみに、子宮穿孔とは、手術に用いた器具が、子宮壁を越えて腹腔内に到達することである。子宮穿孔の時点で気づけばいいが、気づかず続行するととんでもないことになる、といわれているが、その経験は私にはまだない。

子宮穿孔は技術が未熟だからということではなくて、いくつかの要因が重なると思う。操作しにくい状況で、子宮がどちらかに偏っていたり、子宮頸管が難かったり、既往の手術があったりと、そしてそこに取り残しを恐れてゴシゴシすればアッと思う間もなく、と聞いている。

超音波で観察しながらすれば大丈夫という人もいるかもしれない。しかし、超音波で観察できる器具の先端と、実際の器具の位置には微妙にずれがあるので、そればかりを信じるわけにはいかない。また、観察しながらやると、手元がおろそかになることもある。とはいえ、私も時に超音波を併用しながらやるわけで、あくまで参考所見と思うにとどめている。

人工妊娠中絶術にしても、流産手術にしても、確か昨年か1昨年に、どこかの公的組織(WHO?)からこの手術の手技は吸引法が望ましい、という勧告が出ていたと思う。当院は平成19年開業であるが、開業以来基本は吸引法である。そして臆病者の私は、子宮穿孔が怖いので、やりすぎない様に心がけている。

その結果として、取り残しが生じる場合もある。しかしこれにもまた一理あり、簡単に吸引除去てできない組織であれば、それは手技的な原因(下手)もあるかもしれないが、基本的にはその組織が子宮内に強く引っ付いている(つまり子宮の組織と強固に結びついている何らかの理由)のかもしれない、と思う。そうした組織を一度に取るより、二回に分けて取るほうが結果としてはいいのでは、と思っているので、取り残しが生じた場合には経過観察し、場合によっては再度手術と。

これらの話は、過去の私の経験と考えからこのような流れになったわけで、今後の世の中の流れでまた変わるかもしれない。願わくば日本でもRU486が使用できるよういなるといいな、と思っているが・・。

最後にこの人工妊娠忠節術の話は初期の妊娠(11週くらいまで)の話である。12週以降となると別物である。それはまた別の機会に。なお、個人的には、妊娠11週くらいでの手術は引き受けたくないので、妊娠10週までが当院の対象範囲である。

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芍薬のつぼみが目立ってきた。ただこの場所は、風が強いので、頭の重い芍薬の花では風に耐えられない。対策が必要だよな、と。