傷跡の話をする前に、先に切開とお縫合の話をすべきであった。ということで、まずは切開の話から。会陰切開から始めよう。

会陰切開とは、読んで字のごとく、会陰部を切開することである。お産の直前にハサミで会陰部(主に膣壁と膣周囲の皮膚)を切ることである。当然麻酔をしないと痛いので、余裕がある時には局所麻酔をして切っている。しかし、出産直前で陣痛という強い痛みにさらされている時には、切開の痛みを感じないので、その場合はそのまま切っている。(この場合は、陣痛の痛みが強すぎて、他の痛みはその時には自覚できないのである)

私は以前は右側の会陰切開を行うことが多かった。時計の方向でいうと、7時方向である。最近は状況によっては正中切開も多い(時計の方向で6時)。施設によってはこれが左側あることもあるかもしれない。私は右利きなので、右側切開のほうが切開後の縫合が縫いやすいので、もっぱら右側切開であった。

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切開する場合、やはりどうしても必要最小限とおもって切開するわけである。しかし、その後のお産の状況(この場合、その後のお産の過程で力みすぎる場合、肩や手が出てくる場合の保護の程度など)により切開創が大きく変化する。できるだけ傷がそれ以上広がらないように保護に努めているけれど、やはりどうしても時に予想以上に裂けてしまう場合がある。切開した傷が、延長してさらに深く、長く切れてしまう場合もあれば、切開が不十分で、新たに別な方向に切れてしまう場合もある。

正直言うと、予想以上の傷となってしまった場合には、これは患者様には誠に申し訳ないのであるけれど、心の中で”ごめん”とつぶやきながら、産後の修復に努めることになる。私としても、10分程度で済ませたいけれど、時には複雑な傷であれば、30分以上かかる場合もある。

切開するタイミングと程度と方向の見極めは、やはり難しい。様々な因子が絡み合っていて、私の予想通りに進むとはいいがたい場合があるのである、といつも思っている。

産後痛みを考えた場合、やはり正中切開のほうがダメージが少ないので(産後の痛みが軽い)ので、正中切開を中心に行った時期もある。しかしその場合、コントロールされた傷ならいいけれど、コントロール不可(会陰部の保護が結果として十分に行えない場合)の場合、大変なことになるので、なかなか難しい。

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また会陰切開および縫合において、問題を複雑にしているのはその周囲の豊富な血流である。出産直前においては、当然児頭が骨盤内にあるわけで、そのため児頭による圧迫で骨盤周囲の血流が変化する。そして出産前に、便秘や長年のトイレで力むスタイルが身についていると、ヂが出ている場合もある。

”ヂ”痔核とは、肛門周囲の血管の怒張とその表面の皮膚の硬化であると思っているので、分娩時に分娩台の上で1時間くらい力み続けると、お産が終わった後におしりに分厚い花びらのバラの花が咲くことがある。この場合、バラの花よりも多肉植物というほうが適当かも知れない。

これだけ痔核がでているということは、その痔核に血流を供給する血管が、周囲に存在するわけで、特にお産後には、肛門膣周囲の血流は極めて豊富で、太く拡張している。つまりこれらは地雷原であり、縫合する際に、こちらに糸を間違ってかけると、とんでもなく出血する。できるだけ糸をかけないよう注意をするけれど、時にはその血菅が切れて出血している場合もあるわけで、となると縫合せざるを得ない。

この太く拡張した血管からの出血は、あっという間にとんでもない量に達するので、縫合せざるを得ないけれども、その場合にはある程度深く糸をかける覚悟がないと、事態に火を注ぐことになる。その結果、深いところをびっしり縫合すると、産後にとてつもなく痛く、おまけにこの糸は抜糸できない(抜糸したら出血するし、埋没縫合であるので抜糸できない)ので、糸が解けるまで(約1か月)局所の牽引感がつづくことなる。

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できればそうなってほしくないけれど、様々な出産のケースがあり、時には結果としてそうなっていることもある、ということでご理解いただきたい。(決してそうしようと思っているわけではないし、私も産後の修復は10分以内で修復できる程度の傷にとどめたい、と切に願っているのである)。

さてこれから縫合のはなしであるけれど、これは次回ということにしよう。

写真は、以前掲載した写真である。何故再掲載かと。実は、この写真の建物は、以前に気付いていたので、9月に近くのたこ焼き屋さんに行って、待ち時間がある時にそばまで歩いていって、写真を撮影した。で、どうもその際に、私は内部の方から見られていたらしい。たまたま当院を利用された方で、如何も見たことのある人がカメラで撮っている。でも営業終了後なので、と。

昨日たまたま外来に担当者がお越しになっていて、事情を聞いた。そうか、見られていたのか、と。レストランは水曜日以外は昼間のみ営業しているということであった。いつの日か時間を作って、食べに行きます、と約束をした。