昨日の外来で、産後に新生児にケイツーシロップをあげたくない、臍の緒を早く切りたくない、というお母様がいらっしゃった。どうしてこの様な質問が、とも思わないでもないが、当院の方針として、ケイツシロップを生後3か月まで投与すること、臍帯の結紮は通常1分間待機して切断すること、などを説明した。

 で、ふと思って、ネットで検索すると、該当するような内容の趣旨のブログがあった。どのような方が記載されたのかな、と思って探してみたが、担当者の履歴はわからなかったので、医療関係者かどうか、よくわからない。 記事の内容は2016年であるけれど、妊婦様がさまざまな情報検索の結果にいきあたったブログなのであろう。

 ちなみにネット上で検索すること、ケイツーシロップの投与することのメリットを述べてある記載のほうが多いし、その医学的根拠もきちんと説明されている。そういうなかに、ちょっと異なる論点のブログである。

 さて、ブログを記載する人には様々な信念があり、動機があり、他者のブログの内容を批判することがこのブログの目的ではない。当院ではどのようなことをしているか、あるいは院長がどのように考えているか、ということを表明することがこのブログの主たる目的であるので、他者はどうあれ、せっかくだからケイツーシロップの話をしよう。

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 私が熊大医学部を卒業したのは、昭和60年である。その当時の小児科の教科書に、ビタミンK欠乏性頭蓋内出血の記載があったように思う。要は、生後数日から半年の間に、母乳保育で育てられている赤ちゃんが、突然けいれん発作を起こして病院に運び込まれる。調べたら、頭部に大きな出血巣があり、その取穴による影響で神経が圧迫され、けいれん発作を起こした、というものであった。その原因は、新生児のビタミンKの不足によるものである、と。ほかにも新生児のビタミンK欠乏による病気で腸管出血があり、これらの病気の予防のために、ビタミンKを出生直後から与えるのである、とならったような気がする。

 ビタミンKは、人間の体内で血液を固まらせるために働く大切な因子で、このビタミンKが不足すると、血液がサラサラの状態となる。体の中の蓄えはそう多くはないので、十分に補充できないと、枯渇した場合、そのようなことが起こりうる。ビタミンKはビタミンの1種であるから、基本的には生体内では作られないし、食事で接種するしかない。唯一の例外、納豆であり、納豆が大好きな人は、その腸管に大量の納豆菌が供給され、その納豆菌が腸内でビタミンkを産生するので、そうした方々はビタミンKの濃度の高いことが予想される。

 母体の中に長期間滞在する赤ちゃんの栄養素は、基本的に母体の栄養状態を反映する。つまりビタミンKの濃度の高いお母様から生まれた赤ちゃんはビタミンKの濃度が高いし、低いお母様はビタミンKの濃度が低い。ビタミンKの濃度が低いと、出血という問題が生まれるので、本来ならビタミンKの濃度を測定して。投与の有無を判断すべきである。しかし、微量に存在するビタミンKの濃度を測定することは難しいし、またPIVKA(ビタミンKによる凝固能を調べる検査)などの特殊な血液凝固能の検査をするためには、血液を採取して、その結果が出るまでにかかる時間がある。一方ビタミンKの過剰投与で中毒になることはない、とされているので、それならビタミンKを最初から投与しよう、というのが基本的な考えであると思う。

 従来、生後直後、退院時、そして1か月健診時に計3回のビタミンKを投与することが従来の産婦人科の方法であった。で、平成20年ごろとある訴訟事件があり(ビタミンKを投与せず、頭蓋内出血が起こり、裁判となり、和解勧告が出たというもの)、その後しばらくして新生児学会から従来の産婦人科の投与方法でもいいけれど、オプションとして、生後1か月あるいは生後3か月までビタミンKをとうよしてもいい、という勧告が出た。その前後で、ビタミンKの製剤が分包製剤となったので、以来当院では生後1か月までの分4回を退院時に渡していた。

 で、つい先日とある講演会で、生後3か月までビタミンKを投与したほうがいい、福岡県では現在その体制に移行しつつある、という話を聞いたので、当院でもつい最近生後3か月までと改めた。(本来なら生後3か月となると、産科の領域ではなくて、小児科の領域であるけれど、このビタミンkに限って、万一そうした領域を主張して、ビタミンK欠乏性の何らかの疾患が生じた場合、大変なことになるので・・と思って)

 ということでそのような方針に変更した際に、この様なことをお母様から聞いた。私の立場としては、当院の方針としてこの様にする必要性があると院長が判断するので、投与します。どうしてもその方針に従えないのであれば、他施設を含めて再検討ください、というしかないかな、と思う。でも万一、二次性のビタミンK欠乏性の病態が生じた場合、極めて後味の悪いものとなるので、根気よくビタミンKシロップの必要性を説明するしかあるまい、と思っている。

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写真は近所のお宅、その2である。こちらではどうもデコポンを育てているような・・・。そしてオレンジ?蜜柑?だいだい?そうした柑橘系もあるような・・・。寒い季節に、緑の葉とオレンジ色の果実、なかなかいいなと思う。そしてそれに味覚も加われば、と。今から植えてもできるのは、数年先であるけれど、来年の植木市で探してみよう。