いつのまにやらそうなってしまったのであるが、クリニックでの朝食時、私は食堂に現れて、患者様と一緒に食事をすることにしている。最初は、朝食時に患者様が一人ぽつんと座って食事をしていたので、会話の相手にというつもりであった。話の種に、黄疸や抜糸の話などをするようになり、そうしたことで会話が少しでも盛り上がれば、と。

また、クリニックでは、出産時、退院時、沐浴時にお母様と赤ちゃんの写真撮影を行うのであるけれど(これも開業以来)、この写真の整理は私の仕事であった。その写真を患者様毎にまとめて保存し(これは個人情報でもあるので、門外不出である)、最初のころは小さなフォトアルバムにまとめていた。次第にその数が多くなり、今では同時プリントに変えた。

で、そのうちに、これらの写真だけでは面白みに欠けるなと思うようになり、いつのころから忘れたけれど、朝食時に私がカメラをもって食堂に現れるようになり、そしてお母様方の写真を撮影することにした。スッピンで写真撮影なんて、プライバシー侵害も甚だしいが、ま笑い話として、容赦いただいている。(時には写真撮影が嫌で食堂に現れない、お母様のいらっしゃるかもしれないが・・・)

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クリニックの食堂は、建物3階にあり、朝食時には天気がいいと、飯田山や阿蘇の外輪山を望むことができる。時には益城の花火をみることもできる。

そうした環境で、ここ数年朝食時の院長の話として、話題を提供している。基本は4本立てで、黄疸・ビタミンK・抜糸・建物となる。大体の人は、4本の話を聞くころには、退院なので、私としては順繰りに話していけばいい、と思っている。

話題提供ではあるけれど、黄疸やビタミンKや抜糸の話は、医療と直結した話なので、お母様の方の産科医療への理解のために、と思っている。建物の話は、半分私の趣味のようなものであるけれど、私なりの考えや、クリニックの理念を表現する場所として考えている。

同じ話を続けていければ、だんだん飽きるのも当たり前なので、少しづつ変化し、時に新しい内容も加えている。

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食事時に話をする目的は、クリニックでの医療の理解のために、という側面もあるが、もう一つは、できれば食堂で他のお母様方と会話をしながら食べてほしいな、という願いもある。

病室で一人でゆっくり食べたいという方もいらっしゃるかもしれない。それを無理に食堂にというつもりはないけれど、できれば食堂で食べてほしい、と願っている。そしてできればそこで少しでもお母様同士の新たな友人関係ができることを願っている。

どうせお産が済んで退院すれば、実家あるいは自宅でのいつもの決まりきったメンバーとの食事がまっているし、場合によっては帰れば、上の子供がまっていて、ゆっくり食事をする暇はないかもしれない。ましてや、会話をしながら、食事が運ばれてくる機会はそうはない。

おまけに、目の前にいる人はほぼ同時期に出産した者同士という気安さもあれば、会話もはずもことであろう。さまざまな思いを、胸にため込むことなく、ある程度放出することで、息抜きができる。そしてお互いに共感できる話題であること、それも大切なことかもしれない。

だから時に会話が盛り上がって、食堂で、30分以上過ごすこともあるかもしれない。笑って、会話して、楽しいひと時である。でも部屋に戻れば、そこにはあらたな戦いが待っている。赤ちゃんとのお互いの関係がうまく構築されるまでには時間がかかる。そうした戦いの前の息抜きと考えれば、と。

そしてできれば、そこでいい方と知り合えた、と思ったら、電話番号なり、LINEなり、メールアドレスなりを交換してもらって、退院後もお互いの交友関係が進むことを願っている。つらくなった時に愚痴をこぼしたり、困った時にアドバイスをもらえたり、あるいは一緒に考えることができたら、と。

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月曜の朝の風景の写真である。雲の少ない青空であった。日曜日にバラの手入れを少しした。つぼみの摘除と土の補充。駐車場に行くと、電線の上に雀かな、と。あと1か月もすれば稲刈りである。