現在の手術は、内視鏡あるいはロボット手術が中心かもしれない。開腹手術は手術の基礎であると思っているが、術後回復のためには傷が小さい方がいいし、より安全で正確で、そして術後の回復もと考えて、このような流れにあるのであろうと思う。

しかし、帝王切開手術においては、どうしても傷が小さくはできない。なぜなら新生児を取り出すための穴が必要であり、そのためどうしても皮膚にそれなりの切開を加えなければならないからである。妊娠した女性の下腹部は、妊娠子宮により進展されているので、その時点で15cmくらい切ったとしても、術後に皮膚が縮むので(妊娠した子宮が産後の状態になるので)、創の長さは少し短くなる。

あまり傷跡は目立たせたくない、という思いは術者共通の思いであるから、皮膚を最小限の切開で済ませたい。しかし、あまり小さいと新生児を出すときにちょっと苦労する。創を拡げる機械(開窓器)をつかうかどうかでも変わるかもしれない。

当院(ウィメンズクリニックグリーンヒル)では、以前は開創(窓)器を使っていたが、思うところがあり、現在は使っていない。なので、新生児の頭を出すときにそれなりの長さが必要となる。


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さて、それでは皮膚をどの方向に切開するか、と。既往に帝王切開や開腹術があれば、基本的にその創の方向で切開する。初回の帝王切開であれば、基本は皮膚を横に切ることが多い。人間が腰をかがめたときに、下腹部にできる皺の部分を念頭に、そのラインを15cmほど横に切る。ついで、脂肪層をそのまま横に切って、筋膜も横に切る。腹膜は縦に切って、おなかの中に到達である。

あとは、子宮体部下部の前面の漿膜を切開して、膀胱を十分に剥離して、下部前面を横に切開して新生児を出す、ということになる。で、胎盤を出したあとは、切った切開線の修復(縫合)ということになる。

術後の感染予防、瘢痕予防、などから様々な手技や材料が報告されている。しかし、なじみのない素材を初めて使うより、なじんで安心できる素材を中心に使うことが多い。そこで問題となるのが、修復の素材として何を使うかということになる。

私個人の気持ちとしては、出来るだけ術後に創が目立たないようにと思っている。しかし、人間の皮膚の引っ張られる方向によって、傷に張力がかかると、どうしてもなおる過程で皮膚の縫合面が盛り上がってい来ることがある。そのため縦切開であると、やはりどうしても瘢痕となり、術後しばらくすると傷が大きく盛り上がり、赤くなっている場合がある。こうなると、盛り上がった部分が異常知覚で、かゆみがあり、知らず知らずのうちにかきむしり、それが刺激となって、さらに盛り上がるという悪循環になる。

横切開だから盛り上がらない、ということもない。横切開であっても、矢張り時には盛り上がることがあり、ふとめのミミズくらいになっている方にもお目にかかることもある。できるだけそうならないように、あれこれ苦労しているのであるが・・・・・。

でも中には、自分でもほろぼれするほど傷のきれいな人もいることは事実である。これ私がやったの?と思って患者様に聞くと別のクリニックということもないわけではない、また縦の傷であっても時にきれいに治っている人におめにかかることもある。

つまり、傷がきれいになるかどうかは、確かに傷の方向や術者の技量によるところもあるが、その帝王切開の受けた方の体質や状況などにも影響されるということであろう。

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それは帝王切開するときに、あとの傷のことを考えない主治医はいないとおもうし、みんなそれなりに考えて手術を執刀する。しかし、術後半年もすると、予想外の瘢痕に出合うこともある、という事態かな、と。

私自身もできるだけそうなるように、ささやかながらあれこれ考えているので、開業当初からすれば、いくつかの部分が変わったと思う。そしてこれからも傷を少しでもきれいにするためにあれこれ考えるけれど、結果としてやはり盛り上がった、という場合も帰途あることであろうな、と。ということは、妊婦様の寛容の気持ちを期待するしかないのかな、と。

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クリニックの2階においてあるハイビスカス。本来なら、青い空と緑と黄色の対比でといきたいが、売前線はまだ九州の北にあるようで・・・