2018年12月

不安・恐怖が不要というわけではない。不安や恐怖があるから、それに備えようと思うわけで、そして人間らしい反応として当たり前のことである。しかし、必要以上に不安や恐怖が高じて、パニックになったり、別世界に飛んでしまったら、ちょっと大変なことになる。

DSCN0904 (1280x958)


これは分娩においても、同様であり、だからこそそうならないように当院でも尽力するし、そして妊婦様自身もきっと様々な工夫をされていることと思う。本を見て、人に話を聞いて、そしてネットで探して、と。様々な情報が手に入るし、だれそれの体験談も容易に手にいる。

ただ、そうした体験談は時にその人個人の特殊な体験であることもあるし、それがすべてに当てはまるとは限らない。でも、疑心暗鬼の世界で、あれも、これも、あるあるの世界にはいってしまったら、もうたぶんぐるぐる回っても元の場所で、なかなかぬけらない。

私自身もくよくよ悩むことがないわけではないけれど、ある程度のところで割り切って、他のことに目を向けて、出来るだけ気にしないようにしている。私自身はそれでいいけれど、それではそうした世界に陥ってしまった妊婦様に対しては、と。

DSCN0905 (1280x957)

当院は、お産に対応する施設なので、365日、24時間当院には常にスタッフが待機している。陣痛がきた、破水した、などの対応が中心であるけれど、当院を受診されている方々から様々な相談が電話でいただくこととなる。

当院を受診された方々からの相談は、これは本来なら電話再診料がいただけるはずであるけれど、これは当院を受診されている方々へのお約束(なにかあったらいつでもどうぞ)の一環であり、そうしたお代金をいただくことはない。しかし、本来、医療情報を提供するのであれば、それは医療の形であり、そうした料金をいただいている施設もあるかもしれない。

たまに、全く当院を受診したことのない方からも、相談があるかもしれない。これに対しては、基本的にお答えする必要はない、と思っている。それに電話だけでは正確な情報が得られない。医療は基本的に対面診察(患者様と向き合って)が基本であり、診察のない状態で正確な判断は下せない。(とはいえ、最近遠隔医療なるものも保険請求で始まったが・・・)そうした正確な判断が下せない中で、言葉だけで説明することは難しい。

なので、疑心暗鬼の世界に飛び込んでしまった方々であれば、あとはやはり直接の診察しかない、ということになる。直接お会いして、診察して、それから話をして、そして必要であれば専門的な施設を紹介する、あるいは当院で対応する、ということにある。

DSCN0906 (1280x956)

一方分娩のために当院に入院されている方々であれば、これはもうスタッフとのコミュニケーションを確立していただいて、そうした不安・恐怖があれば、その都度そうした不安恐怖の解消に努める。ただし、分娩台に上がってしまえば、もう後には引けないので、あとは勇気を出して出産に望めるように叱咤激励しかない。

不安や恐怖があっても、それを上回る勇気をもってお産に臨んでいただきたい、と願っている。ただ、どうしてもお産に対する不安や恐怖が強い(特に痛みへの)のであれば、そうした際には家族やスタッフの援護射撃と硬膜外麻酔による無痛分娩なども有効かもしれない。

なので、当院においては、通常の分娩においても、帝王切開においても、妊婦様の同意があれば、どなたが立ち会ってもOKである。

DSCN0907 (1280x960)

写真は、12月29日の午後。28日に雪が待っていたので、阿蘇の外輪山から中岳にかけて、うっすら雪化粧。鞍岳のほうも、少し白いような気がする。


分娩は、当然妊婦様が赤ちゃんを誕生させるという当たり前のことであるけれど、当事者はその妊婦様と赤ちゃんだけではない。時には、ご主人が付きそい、あるいは実母が、妹や姉が付き添うことがある。極めてまれであるけれど、時に父や子供が付き添うこともある。

つるっと短時間で生まれて、かつお母様が平然とした態度でお産に臨むのであれば、その付き添いはたぶんどなたでもいいかもしれない。でも実は、お母様は平然としていても、心の中ではこのようなシーンは他人は見られたくないけれど、我慢しているということもあるかもしれない。

DSCN0826 (1280x959)

一方、入院しても、そう簡単に生まれない場合がちょっと面倒なことになる。破水した、明日までにはうまれるかな、くらいの気持ちで入院して、と。それからいい形で陣痛が来ればいいけれど、陣痛がなければ薬剤で陣痛様の子宮収縮を起こすこととなる。その子宮収縮に反応して、お産が進行して、生まれればいいのであるが・・・。

確かにそのまま生まれる場合もある。でも、生まれない場合もあるわけで、そうなると翌日再度挑戦ということなる。その間、家族が付き添う場合、人によっては付き添うことで本人が安心される場合もあれば、長時間だとお互いが少しストレスを感じるかもしれない。まして、それが2日、3日と続けば・・・。

そこら辺から微妙なずれが生じることもあるかもしれない。自分の考えていたお産とは違うと。あるいはサポートする家族の思いもずれてくることがあるかもしれない。

お産はお祝い事であるし、新しい家族が増えることは極めて望ましいことである。ただし、それまでの過程に紆余曲折がある場合もあるわけで、こればっかりは、お産に関してはいつも不確定事項である。その点をお産に関与する皆様が広い寛容の心で受け止めていただければ、と願っている。

人生の中でのお産という経験を、出産するお母様だけでなくて、付き添われる皆様にとってもいい経験となることを願っている。お産に対する期待と不安を、皆様自身のその時の経験で裏打ちをしていただいて、今後の人生の糧としていただければ、と。

とはいえ、苦い思い、恐怖感、痛み、などのネガティブな面においては、なかなかその克服は難しいのも事実かもしれない。時間の経過とともに少しづつ解けていく思いもあるかもしれない。

そして、私も含めて当院のスタッフ全体で、皆様のお産を振り返り、お産自体がどうであったかという検討をすることも大切なことである。スタッフ全体の意気込みとして、100%のお産をと思って対峙しても、スタッフの空回り、過剰な点、いたらない点、様々な反省すべきところがあるかもしれない。後々気づくこともあるかもしれない。そうして点をきちんと認識して、今後のお産にいかす、ということも施設として大切なことである。

DSCN0825 (1280x960)

クリニックのフェンスに植えた南天。私自身の期待では、12月末に取り入れて、正月用にというおもいであったが、どうも鑑賞用にはいたらないようで・・・。


以前の別の施設で勤務していた時代には、勤務時間が終われば、勤務は終了であり、その次の医師に引き渡すだけのことである。現在医師の過重勤務から、労働時間の制限と、そしてグループ診療という方向に向かいつつあるような気がする。ま、これは時代の流れであるし、産科医も人であり、疲れすぎた状態では役に立たない。だから、それはそれで、と思う。

しかし、個人施設で開業という形態をとる場合、グループ診療はなかなか難しい。個人施設であっても、複数の産科医が勤務すれば、ある程度グループ診療は可能であろうけれど、でも二人か三人くらいしかいなければ、帝王切開や緊急事態には全員集合であろ。複数の医師が対等に対応する場合、そのリーダシップあるいは責任を誰が対応するのか、という問題が存在するかもしれない。

DSCN0845 (1280x960)


当院(ウィメンズクリニック グリーンヒル)においては、基本は院長がすべての診療において責任をもって対応することとしている。(というか、院長一人であれば、そうせざるを得ないし、またそうしている方が私も気が楽である)

常時待機で、24時間365日、が昔ながらの産科医の基本であると思っているし、私が元気に院長が務められる間は、このスタイルでと思っている。

そしてそのためには、実は当院のすべてのスタッフが、私の意向を理解していただくことが第一であると思っている。つまり、何かへの対応が必要である場合、院長ならどうするか、とスタッフが考えて、そのスタッフにできることをきちんと対応して、院長に報告する、ということである。そのシステムがきちんと動くことで、クリニックの外と中への対応が院長で可能となる。

そうした際に、新人のスタッフであれば、まだ経験が少ないので、余裕がなくなって、てんぱってしまって、頭が真っ白になって、動作がとまる、という事態もあるかもしれない。それはそれで仕方のないことであり、誰でも通る道でもある。こうした経験を積んで、成長していくのであるから・・・。でもそうした事態で、患者様に不利益を生じることのないように、二重三重のシステムを構築しているつもりであるけれど、それでも患者様に不利益が生じた場合には、きちんと謝罪し、しかるべく対応をおこなうように心がけている。

院長も、スタッフもともに少しづつながら、様々な経験を糧に成長していくことが、望ましいことであると思っている。そのために必要なことはなにか、と院長として自問自答ながらの日々である。

DSCN0843 (1280x923)

12月になっても、まだ青々としているし、まだ花も咲く。これはこのまま冬をこえるかも、と。

現在のクリニックの場所は、熊本市の東のはずれで、交通の便はいいとはいいがたい。バスは二路線あるけれど、街中に行くまでに時間もかかるし、本数もそう多いわけではないので、もっぱら車を利用しての生活である。(身近なところは自転車であるけれど)。


久しぶりにバスや電車に乗ると、昔とは変わった、としみじみ思うし、また街中に行ってもやはりそう思う。というか、基本的に籠の鳥の生活であり、行くとしたら個人的に興味のあるところにピンポイントで行くようなものなので、じっくりそれ以外のものを見る機会はない。


土曜日、忘年会そしてクリスマス前の季節に、友人と街中で会うことになった。タクシーはさすがに捕まらないと思って、長嶺小学校からバスに乗ることにした。WEBで時刻表を調べて、言ったつもりが、その時刻表が間違っていた。

IMG_0810

きたのは、都市バスではなくて、産交バス。ということは、益城の木山から。乗客は1名乗車の状態であった。乗り込んで、日赤を過ぎ、東バイパスを超えるころになると、バスの中は満員である。

IMG_0811

予定では、白川中学校で降りて、明午橋を渡ろうとおもっていたけれど、あきらめた。仕方がないので、乗客が減る通町でおりて、上通りを歩く。

歩いてみて思うのは、上通りが明るくなったな、と。上乃裏通りもお店が多い。

IMG_0812


ちなみに、私が大学生だった頃(40年くらい前の話である)は、下通で飲んで歌って、それから上通りに行ってもなにもなくて(餃子屋、焼き鳥屋、一膳めし屋)、そのまま抜けて白川公園の屋台か、藤崎宮の界隈のお店くらいしかなくて、夜は寂しかった。

先日の忘年会の際に散策した、辛島公園からシャワー通りそして通称さんかく公園も変わったけれど、上通りも変わったな、と感慨深いものである。

でも変わらないほうが不思議で、40年近く経過している。私自身が60に手が届くところまで来たので、当然かもしれない。

IMG_0813

で、たどり着いたのがここである。自然派ワインと料理の店、とあるのであるが、どうも自然派の言葉は、ワインと料理にかかっているような、そんなお店であった。
IMG_0814

調子に乗って、グラスワインを重ねてしまった。

IMG_0819

最後の〆にでてきたのが、パスタであった。それも金峰山界隈で狩猟された猪の肉を使ったものである。不思議な体験であった。

人間経験がすべて、とは言い過ぎかもしれないが、やはり経験は力である。だからお産を経験された方であれば、次回のお産においては、その前回のお産を参考にする。また、外来にお越しになった方々においては、その既往の病気(疾患)は大変貴重な情報であり、その点をおろそかにすれば、とんでもないことになる。

DSCN0822 (1280x924)

ただし、一人目のお産がとんでもない経験であると、次回お産への恐怖感が先行し、その結果次回妊娠に踏み切れないという方も時々いらっしゃるわけで・・・。当院のお産でもそうしたことがないように、と努めているけれど、時には予想外のことが起こることもある。また私たちスタッフにはどってことなくても、お産の当事者であるお母様方には大変な思いであった、というようなギャップの存在することもあるわけで・・・。

個人的に、現代の少子高齢化の日本において、出産を経験する機会は減少しつつあるわけであるから、その貴重な機会が、少しでもその当事者であるお産を経験するお母様とその家族にとっていい経験となることを願っている。

なので、不安と恐怖ばかりのお産はできれば避けたい事態であり、仮にそうなったとしたら、できればその不安と恐怖を少しでも取り除いて、次回への期待を抱いて、退院してほしいなと願い、努める所存である。

DSCN0832 (1280x980)

一方初産の方であれば、これはまずは経験していただくしかないかな、と。身近な人からの話、本や雑誌で得られる情報、そしてネットで得られる情報とさまざまな情報が錯綜することであろう。お腹はおおきくなっても、いっこうに生まれる兆候がなければ、不安が胸をよぎるかもしれない。お腹は大きくなり、体重も予想以上に増えても、まだ生まれない。

また出産までの情報で、お産は大変痛いと聞くかもしれない。会陰切開があるかもしれない、縫合があるかもしれない、抜糸も痛い、帝王切開にはなりたくない・・・・と様々な思いが交錯するかもしれない。人間、時間があればいろいろなことを考えることであろうし、そうした際にスマホで検索すれば、という事態も予想される。

そう思っていたら、ようやくお腹が痛くなった。よしこれは陣痛だと、思ってクリニックを受診すると、まだまだです、といわれる。初めてのお産でわからないし、不安も多いけれど、まだまだといわれれば、帰らざるを得ない。仕方がない、と。

産科医の立場からすれば、やはりそこそこ痛くなって子宮口が開いてこないと、とてもお産に進むとは思えない。要は、お産になりそうな陣痛が来るまでの間を如何に過ごすかということである。本当の陣痛がいつからか、それは誰にもわからない。本当の陣痛が来るまでの間を、あまり深く考えずに不断の日常生活を続けて、お産のことを頭から切り離せるのが理想であると思っているけれど、やはり痛みが不規則にあるとなかなかそこは難しい。

私個人としては、笑顔が出て普通に会話ができる間はまだまだです、と話している。陣痛が来た時に、痛みで顔が歪み、しゃべらないくらいになったら、痛みはほんまものかな、と。できればその時点で、外子宮口が数センチでも開いていればOK。逆にいえば、その時点でもまだ子宮口が開いていないならまだまだなので、まだまだ痛みが足りません、と説明せざるを得ない。

単純にいえばこれで終わりであるけれど、そこに医療安全の観点からすると、分娩監視装置の装着、各種検査(超音波、血液検査、培養検査)などの検査所見が加味されることになる。

種々のリスクがあれば、それを想定したうえでの入院対応となる。入院してからの話はまた明日以降に。

DSCN0835 (1280x998)

写真は、院内のバラのつぼみ。12月ともなりそろそろ霜でつぼみも枯れるかな、とおもっているけれど、せっかくのつぼみだし咲かせてあげたいけれど、そのためには暖かい環境に移さない限り不可であり、どうするか、と。


↑このページのトップヘ